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1種類の降圧剤で足りるのは高血圧患者のわずか3分の1
高血圧であることが判明し、降圧薬での治療を行うことが決まったら、とりあえずは1種類の降圧薬の服用から始まるのが一般的です(そして、カルシウム拮抗薬が選ばれることが多いようです)。
しかし、1種類の降圧薬で血圧が目標値まで下がる患者がどれくらいいるかと言うと、現状ではわずか3分の1程度。
つまり、高血圧患者の3分の2は1種類の降圧剤の服用では十分に血圧を下げることができないのです。
そこで、医師はさらに降圧剤の種類、量を増やすという判断をすることになります(もちろん、生活習慣の改善も要求されます)。
降圧剤の選択は作用の異なる降圧薬を組み合わせるのが原則
降圧剤を増やす場合、基本的に同じ作用の薬を増やすことはせず、異なる作用を持つ薬を併用することになります。
同じ作用の薬の服用量を増やしても、降圧の効果がそれに比例して高まることはなく、逆に副作用のリスクがそれだけ高まるだけだからです。
「降圧剤の種類(類型)」のページにも書きましたが、降圧剤の種類は大きく分けてカルシウム拮抗薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、α遮断薬、利尿薬、β遮断薬があります。
そして、2~3種類の降圧薬を併用する場合、カルシウム拮抗薬、利尿薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)またはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬の中から選択することが多いようです。この併用パターンが降圧の効果がでやすいと一般的に考えられているそうです。
* アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)とアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は同じ「レニン・アンジオテンシン系抑制薬」なので、併用することは通常はありません。
もし、あなたが服用している降圧剤が上記の通常パターンと違う場合には、その組み合わせにした理由を担当医師に聞いてみると良いでしょう。もし、テキトーな判断で薬を処方されていたら、その副作用のリスクを受けるのは患者ですからね。
降圧薬のABCDルール
なお、欧州の高血圧学会では患者の年齢の応じて降圧剤の併用を決める考え方があります。
この考え方を「ABCDルール」と言います。
具体的には、55歳未満の人(若い人)と55歳以上の人(高齢者)に分け、
若い人にはA,Bの薬を、高齢者にはC,Dの薬を使うというルールです。
そして、「ABCD」の意味は以下の通りです。
A→アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬
B→β遮断薬
C→カルシウム拮抗薬(Ca)
D→利尿薬(Diuretic)
「ABCDルール」の原理
「ABCDルール」の根拠は以下の通りです。
若い人はレニン・アンジオテンシン系のホルモンの働きが強く、それが原因となって高血圧となっている人が多いです。そこで、レニン・アンジオテンシン系のホルモンの働きを抑えるために、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)またはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を使います。
また、働き盛りの若い人は仕事でのストレス、過労などが原因で交感神経が過剰に働き、その結果、心拍数が増え高血圧になっている人が多いです。そこで、心拍数を抑えるためにβ遮断薬を使うのです。
一方、高齢者はレニン・アンジオテンシン系のホルモンはあまり働かなくなります。また、仕事からリタイアしている人が多く(日本の場合は55歳でも働いてますが・・・)ストレス、過労も減っています。
つまり、高齢者の高血圧にはA、Bは効きにくいのです。
しかし、高齢者ほど動脈硬化は進んでいます。そこで血管の抵抗を緩めて血圧を低くするカルシウム拮抗薬が高齢者には適しています。
また、水分の排出による血圧低下を促す利尿薬も効果的です。
日本の医師にもこの「ABCDルール」に従って患者に処方する降圧薬を選択されている方もいます。
ただし、「若い人」と「高齢者」の境界線は「55歳」よりも高めに設定されることが多いようです。
上記したように、日本人は55歳を過ぎてもバリバリ働く人が多いですからね。
3種類の降圧薬で目標値まで下がらなければ“治療抵抗性高血圧”
1種類の降圧薬で血圧をコントロールできない患者に対しては、上述した併用ルールに従って2~3種類の降圧剤が処方されます。
そして、高血圧患者のおよそ80%は3種類の降圧剤の服用で血圧を目標値にまで下げることができるそうです。
しかし、残りの20%は3種類の降圧薬を使っても、血圧が十分に下がりません。
このような患者を「治療抵抗性高血圧」と呼びます。
「治療抵抗性高血圧」となる原因は様々です。
単純に薬を決められた通りに飲んでいない、という人もいますが、
ちゃんと飲んでいても生活習慣が良くない(喫煙、深酒、塩分の摂りすぎ、運動不足など)、
睡眠時無呼吸症候群、二次性高血圧(原発性アルドステロン症など)が原因としてあります。
また、血圧を上げる副作用を持つ薬を飲んでいることが原因となっている場合もあります(経口避妊薬、漢方薬[甘草]、鎮痛剤、ステロイド、抗うつ薬、免疫抑制薬[シクロスポリン]、炭酸水素ナトリウム[重曹]を含む胃薬など)。
そのため、治療抵抗性高血圧と診断された場合は、その原因が何かを特定しなければなりません。
そして、原因を特定したうえで、その原因を解消していく対策、治療、努力が必要になります。