検査内容の予定を変更するといって主治医Wと研修医Mが私の入院部屋を出て行ってから30分も経過しないうちにMが再び部屋に戻ってきた。

 

「検査の予定を変更してきました」

 

そう言いながらMは私に1枚の紙を渡した。

 

 

 4月12日  入院時検査
 4月13日  フロセミド負荷試験
 4月14日  生理食塩水負荷試験、下垂体MRI
 4月15日  カプトプリル負荷試験

 

 

・・・・・問題ない。

 

「よろしいでしょうか・・・」

「はい。これでお願いします」

 

私がそう言うと、どう見ても20代前半にしか見えないピチピチした若い女性研修医Mはそそくさと入院部屋を出て行った。

 

ふぅ、本当に大丈夫なのだろうか・・・

かなり大きめの不安感を抱きながらも、私のお腹は減っていた。
そこへ、ナースが私のもとへやってきた。

 

「お食事の用意ができています。食堂で食べられますか?それともお部屋で?」

「あ、食堂に行きます」

 

ベッドの上であぐらをかいてという態勢での食事は嫌だったので、私は迷わず食堂へ行くことにした。
食堂には飲水量を計量するためのカップを持って行った。

 

食堂に着くと、まずは計量カップにお茶を入れた。
それからカウンターに昼食をとりに行った。

 

「お名前は?」

「あ、のび助です・・・」

 

そういうと、職員が私の昼食が乗ったトレーを出した。
そうか。人によって食事の内容が違うのね。

 

いつもならお茶を大量に飲みながら食事を流し込むように食べるのが私流であるが、今日から3リットル以内という飲水制限がある。
なので、お茶を飲みすぎないように気を付けながら食事をとるようにした。
病院の食事はまずいとよく聞くが、思ったよりはおいしかった。
でも、量は少なかった。
まぁ仕方がない。
特にすることもないので、少しくらい腹が減っていてもなんとかなる。

 

さっさと食事を終わらせて、私は入院部屋に戻り、小説の続きを読み始めた。

 

しばらくすると、ナースが私を呼びに来た。
今日の検査が始まるという。

 

胸部のレントゲンと心電図。

どうということもなく、あっさりと終った。

 

今日はもう検査の予定はない。
ただ、ひたすら飲水と排尿の量を記録しながら1日が終わるのを待つしかなかった。

 

なるべく水分をとらないようにと気をつけてはいるが、それでも喉は乾く。
私は口渇の症状が強いのだ。
飲んではいちいち飲水量をシートに記録する。
飲めば当然、尿意を催す。
催せば当然トイレに行く。
しかし、トイレに行ってもすぐには排尿できない。
尿瓶棚の中から自分の尿瓶を探してそれを使ってその中に排尿しなければならない。
嗚呼面倒くさい。
排尿が終わった後も、すぐには帰れない。
尿瓶にたまった尿を計量器に入れなければならないのだ。

 

計量器の前にいった。
知らないおばはんが計量器の前に陣取っている。

 

「ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ・・・」

 

計量器がおばはんの排尿の量を計算している。

私はただじっと、おばはんの排尿の計量が終わるのを待っている他に術がないのだ。

 

「ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ・・・」

 

終わらない。
おばはんの排尿の計算が、終わらない。
ここは私が今まで生きていた世界とは時間の進み方が違うような空間だ。

 

 

 

ようやく消灯時間が来た。
電気が消えると、9階の窓にささやかな夜景が映し出された。

嗚呼、長く退屈な一日が終わる。
検査予定で思わぬハプニングに見舞われはしたが、とりあえずは当初の予定通りに事は運びそうだ。

私は小説を読むのを止めて、眼鏡をはずしてテーブルの上に置いた。
そしてベットの上に横たわり、薄い掛け布団を体にかけ、そっと目を閉じた。
うまく眠れるだろうか・・・

 

「ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ・・・」

 

ベットの中で静かに目を閉じていた私の耳に、あのおばはんの排尿量を計算している機械音だけがいつまでもいつまでも鳴り響いていた。