カットオフ値の根拠

原発性アルドステロン症のスクリーニング検査は、血液を採取し、アルドステロンとレニンの比(ARR)を測定し、その値が高ければ原発性アルドステロン症の疑いが強いという判定をします。

そして、その際の基準となるARRの値は「200以上」です。

200以下であれば、原発性アルドステロン症の疑いは低いとして次のステップ(機能確認検査)に進まないという判断になります。

 

ただし、この基準値(カットオフ値)は絶対的なものではありません。

 

スクリーニングの結果、どの値で陽性か陰性を振い分けるかについては、「180にすべき」という意見から「1000にすべき」という意見まであり、かなり幅があります。

 

カットオフ値を高くすれば診断の正しさは向上します(陽性と判断してサンプリングをした結果、実際に原発性アルドステロン症であるという確率が高くなる)が、逆に見過ごしが増えます(本当は原発性アルドステロン症であるのに陰性と判断する可能性が高くなる)。

一方、カットオフ値を低くすれば、見過ごしは減りますが、診断の正しさは低下します。

 

つまり、カットオフ値をどこに設定するかという問題は、診断の正しさを向上させるか、見過ごしを減らすかという相反する要請をどこらへんで調整するかということなのです。

 

そして、日本高血圧学会・日本内分泌学会は「ARR200以上」という基準を設定しました。

これは診断の正しさよりも、見過ごしを減らすという点を重視した基準と言えるでしょう。

 

ですが、「ARR200以上」という基準は相反する要請の〝落とし所〟として設定されたものであり、絶対的なものではないということを忘れてはならないでしょう。

 

ARRが高くても(200以上)陰性と判断すべき場合(偽陽性)

 

ARRが200以上であれば、基本的にスクリーニング結果は陽性となります。

しかし、ここで注意しなければならない点が2つあります。

 

1 血漿アルドステロン濃度( PAC)が低くても血漿レニン活性(PRA)が低いとARRが高値になる

 

ARRは血漿アルドステロン濃度( PAC)を血漿レニン活性(PRA)で割った値です。

つまり、ARRは分母であるPRAによって影響されます。

そのため、血漿アルドステロン濃度が正常範囲内であっても、血漿レニン活性が正常よりも低いARRが高値となり、原発性アルドステロン症が陽性(本当は陰性)という結果が出てしまうことがあるのです(偽陽性)。

 

そこで、「ARR200以上」という基準に加えて、血漿アルドステロン濃度が一定以上の値でなければ次の検査(機能確認検査)に進まないという方針を採っている病院が多数派のようです。

そして、血漿アルドステロン濃度のカットオフ値は一般的には100pg/mLとされているようです。

* 病院によって設定されているアルドステロンの絶対値は異なります。

 

なお、低レニンとなる原因としては、高齢β遮断薬の服用などがあります。

 

2 腎機能障害が原因の偽陽性

 

また、腎機能障害によりアルドステロンが高値を示す結果、実際は原発性アルドステロン症ではないのにARRが高値(200以上)となるケースもあります。

 

決断は患者自身がするもの

 

以上見てきたように、ARRのカットオフ値は絶対ではありません。

スクリーニングの結果、微妙な数値が出た場合、陽性と判断されるか陰性と判断されるかは病院(担当医)の考え方によって変わってくる可能性があります。

 

しかし、最終的に次の検査(機能確認検査)に進むかどうかを決めるのは患者自身です。

 

医師にその判断を全面的に委ねるのではなく、検査結果を自分で分析し、また原発性アルドステロン症を疑わせる症状(口渇、頻尿、手足のしびれなど)などに鑑みて、次の検査を受けるかどうかを自分で納得して決めるべきです。

 

自分の健康、自分の人生に関わる決断なのですから。