前回の診察で入院の決断をした私はさっそく仕事のスケジュール調整をした。
入院期間は4日。
これならなんとかなる。
できれば入院は早いほうがいい。
よし。1か月後だ。
私は4月12日から4日間、仕事を休むことにした。
内分泌内科で検査入院の意思を伝える
2016年3月17日
内分泌内科での受診のために私はC病院に向かった。
今日はS医師に入院の意思を伝える日だ。
「失礼します」
予約番号を呼ばれた後、私は静かにS医師の診察室のドアを開けた。
私が椅子に座ると、S医師は私に顔を向けた。
前回と同様にまるで表情がない。
それはそうだろう。
前回と違って満面の笑みで迎えられたりしたらS医師の診断の一貫性に対して疑いをもたなければならなくなってしまう。
無表情のSを見て、私はむしろ安心感を抱いた。
「先生、入院して検査を受けることにしました」
「そうですか」
「それで、日程なのですが・・・4月12日からの4日間を希望します。最短で4日間と伺っていたのでそれでお願いできませんか?」
「ちょっと待ってください」
機械的にポケットから携帯を取り出して電話を始めるS。
電話をしているSの横顔を見ながら特に何の感情も湧いてこない私。
「大丈夫です」
即座に入院の日程が決まった。
良かった。
これは本当に良かった。
「それで、検査の内容ですが・・・」
Sが検査内容を簡単に説明した。
私が受ける予定の検査は以下の3つ。
1 飲水制限尿量モニター
2 下垂体MRI
3 PAの機能確認検査(3種類とも)
そう。
私がSから説明を受けた検査は確かにこの3つだった・・・・・
飲水制限尿量モニター
飲水制限尿量モニターとは入院している間ずっと飲水量と尿量を測定するという検査だ。しかも1日の飲水量は2リットル以内に制限されるらしい。1日2リットルとは通常人が1日に摂る平均的な水分量だ。
この検査の目的は、要するに飲む量と出る量のバランスがとれているかを測ることにあるという。
飲む量が多くても、出る量が比例していれば問題ない。
そして、1日2リットル以内の飲水量で体に問題がなければ、今後もその量で生活ができるはずだということだ(つまり、あんたはストレスを飲水で紛らわしているだけなのだから我慢できるだろ?ということなのだろう)。
下垂体MRI
次に下垂体MRI。
これは尿崩症の疑いをチェックする検査。
尿崩症とは脳下垂体からのホルモン(バソプレシン)の分泌機能に異常があり、その結果尿が大量に出るという病気だ。そして、血液検査では判断が微妙だったのでMRIで脳下垂体の画像を撮り、それで尿崩症かどうかを確かめるということだ。
尿崩症・・・
ないな、それは。
でも私には脳のMRIを撮った経験がない。
尿崩症ではなくとも、何か脳に異常が生じている可能性はある。
せっかくだから一度脳の画像を撮ってみるのも悪くはないだろう。
原発性アルドステロン症の機能確認検査
そして、原発性アルドステロン症の機能確認検査。
ここが本丸だ。
こればかりはちゃんとやってもらわないと困る。
この病院に来て、人によって、科によって、話が違うことが多々あった。
今度ばかりはそれは許されない。
ここでしっかりと確認することが必要だ。
「あの、先生。私、本などでちょっと情報収集をしたのですが、3種類のPAの機能確認検査で陽性、陰性と異なる結果が出る場合もあると聞いています。ある本では3種類のうち2種類の検査で陽性という判断が出たら、サンプリング検査に進むということが書いてあったのですが、この病院でもそういう判断になるのでしょうか?例えば、2種類の検査ではぎりぎりカットオフ値以下で陰性、もう1種類ではカットオフ値をはるかに上回り明らかに陽性というような数字が出た場合なども陰性ということになるんでしょうか?さらには、3種類の検査の間で精度の差、優劣などはあるのでしょうか?」
「原則として3種類の検査で2種類以上“陽性”判定が出たら原発性アルドステロン症であると確定します。しかし、形式的に判断するわけではなく、その数値などを見ながら総合的に判断します。3種類の検査に精度の差、優劣などはなく、公平に総合的に判断することになります」
まるでボタンを押されて自動的に声を出すロボットのようにS医師は答えた。
さすがは“S”だ。
「次に入院費用についてですが・・・」
「はい」
「約6万円です」
「はい」
「そして、入院手続きの際に限度額適用認定の申請をすることをお勧めします」
限度額適用認定・・・
そういえばそんな制度があったな。
入院費用が安くなるという・・・
「原発性アルドステロン症の検査・治療のための入院日数、費用」
「それからのび助さん」
「はい」
「申し訳ないのですが私は4月からよその病院に行くことになっています。そのため入院されるときには別の医師が担当することになります」
「あ・・・そうなんですね」
あっけなく医師Sとの別れが来た。
名残惜しいという気持ちはまるで湧いてこなかった。
とにもかくにも私は検査入院することに決まった。
これから入院にむけてあれこれ準備を始めなければいけない。
私はなんとなく希望に満ち溢れたような感じになって病院を後にした・・・