「のび助さんですね」
突如目の前に現れたどう見ても20代前半にしか見えないピチピチした若い女性が私の名前を呼んだ。
私はその胸にある種の高鳴りを感じた。
「今回担当させていただくことになりました研修医のMです」
は?研修医?
確かに「研修医」と書かれている名札を胸元につけている。
それにそもそもこの女性は白衣を着ている。
突然目の前に現れた若い女性の顔ばかりに目がいって私は全体像を把握できていなかった。
それにしてもこんな若い女の子が研修医って・・・
医学部ってたしか卒業まで6年かかるよな。
ということはストレートでいって24歳か・・・
いや、もう少し若く見える。
もしかしたらこのM
とてつもなく頭の良い子で飛び級で卒業したとか・・・?
あるいは本当は26歳なのに20歳くらいに若く見える子だとか・・・?
いずれにしても、この研修医M
只者ではない。
「主治医のWが後から来ますが、その前に今回の検査の予定をご説明します」
呆気にとられている私をよそに、研修医Mは事務的に一枚の紙を取り出した。
「ここに検査の予定が記載されていますので確認してください」
Mから渡された書類に目を通すフリをしながらMの顔をチラチラと見る私。
そんな私の横で粛々と職務を遂行するM。
「そこに書かれている通り、今日実施する検査は胸部のレントゲン撮影と心電図です。そして明日、下垂体MRIを撮ります。翌日にカプトプリル試験。そして、MRIで問題があれば生理食塩水負荷試験を実施することになります」
ん?問題があれば?
私は見ているフリをしていた書類を見直した。
んん?
「先生、フロセミド立位負荷試験が抜けていますけどどうなってるんですか?」
「え?それは予定されていませんけど・・・」
「いやいや、そんなことはない。前回の診察で入院についてS先生と打ち合わせをしたときに3種類の機能確認検査は全てするということになっていたはずですよ」
「あの・・・今回主治医が変わったので、必要がないという判断になったんじゃないでしょうか・・・」
「そんな・・・。カプトプリル試験しかしないんだったら、わざわざ入院する必要ないじゃないですか」
「・・・そうですね・・・外来でできますからね・・・」
「それからMRIで問題があれば生理食塩水負荷試験を実施するって、どういうことですか?」
「あの・・・それはMRIで問題がなければ生理食塩水負荷試験は実施する必要がないということです」
「え?どういうことですか?下垂体MRIと生理食塩水負荷試験って全く別の検査ですよね?」
「・・・ガイドラインでそうなっているんです」
「はぁ?生理食塩水負荷試験では何を測るんですか?」
「あの・・・私、研修医1年目でちょっと詳しいことはわからなくて・・・」
「この検査ではアルドステロンの濃度を測るんじゃないんですか?」
「・・・そうだと思います・・・」
「だったらこの二つの検査は全く関係ないですよね?アルドステロンは副腎から出るんですから。脳のMRIの結果と副腎からでるアルドステロンの濃度って関係ないですよね?」
「・・・・あの、主治医を呼んできますので、ちょっと待っていてください・・・」
そう言い残してどう見ても20代前半にしか見えないピチピチした若い女性研修医Mは私のもとを去っていった。
私はその胸に別の種類の高鳴りを感じ始めた・・・