9時20分にラシックスを投与されてから私がトイレに行った時間だ。
約1時間40分の間にトイレに行った回数5回。
いつもよりも多いといえば多いが、予想していたほどではなかった。
脱水症状や立ちくらみといった副作用が出る可能性があると聞いていたが、そういったこともなく、私はベットの横の壁にもたれかかってのんびりと文庫本を読んで時間を潰していた。
11時過ぎにどう見ても30代前半にしか見えないハリがない女性研修医Yとどうみても20代前半にしか見えないピチピチした若い女性研修医Mが揃い踏みで部屋に入ってきた。
そして2回目の採血。
あっけなくフロセミド立位負荷試験が終わった。
海図なき航海のような注射針挿入の後の検査はあまりにもあっけなく終わったのだ。
検査が終わった後、私は朝食を取ることにした。
引き裂かれそうな痛みと底知れぬ恐怖が過ぎ去った後、私は激しい空腹感に包まれていた。
すでに昼食と言っていいくらいの時間ではあったが、朝食と昼食の代金は入院費用に含まれているのだからとにかく朝食を食べることにして食堂に向かった。
学食よりもちょっとましな程度のレベルの朝食だったが、お腹が空いていたのでとても美味しかった。
副作用は出なかったとはいえ、2時間近く立ちっぱなしだったので、それなりに体は疲れていたのだ。
13時30分になり、私は再び食堂に行って昼食を食べに行った。
朝食を食べてから2時間も経ってなく、特にお腹が空いていたわけでもないが、他にすることもないのでとりあえず昼食を取ることにしたのだ。
今日のメインであるフロセミド立位負荷試験は終わった。
この試験はラシックス投与後のレニンの値の変化を測定する検査だ。
レニンの値は測定条件のちょっとした変化で大きく変動するので検査前に30分以上の安静が必要となる。
しかし、私は検査前に30分以上の拷問を受けている。
これでは正確な値が測定できるはずもない。
一体私は何のためにこの病院に入院してきたのだろう・・・
「失礼します」
目の前には研修医M。
「今から検診をします」
それから聴診器を取り出して、私の首やお腹の音を聞き始めた。
「あの・・・何を調べているのですか?」
「首やお腹の血管の音を聞いて血管内にコブがないかを調べています。コブがあれば雑音が聞こえるのですが、大丈夫なようです」
「はぁ・・・」
なんで今そんなことを調べるのかよくわからないが、重要な検診ではなさそうなので気にしないことにした。
時計を見ると14時30分。
何もすることはない。ベッドに寝転んで本でも読もうかと思ったが、なんとなく気が変わってやめた。
ぼ~っとすることにした。
それにしても研修医の注射6連発は本当に地獄だった。
まさか自分がこの世に生を受けてこんな拷問を受けることになるとは予想だにしなかった。
まぁこんなことは後にも先にも今回だけだろうが・・・
ん?
明日受ける生理食塩水負荷試験ってもしかして・・・
「失礼します」
目の前には研修医Mと研修医Y。
「明日の検査のためのルートを取りに来ました」
え・・・
研修医Mと研修医Yは黙々と注射の準備を進めている。
「あの・・・今からですか?」
「はい」
「・・・・・・」
「どちらの腕にしますか?」
もはやどちらでも構わなかった。
「では、左で・・・」