6度目の拷問を受けた後、ようやく採血が始まった。
どう見ても30代前半にしか見えないハリがない女性研修医Yが血液を引き、血液が入った試験管みたいな透明の瓶をどうみても20代前半にしか見えないピチピチした若い女性研修医Mに渡す。

 

1本、2本、3本、4本・・・7本。
ようやく全ての採血が終わった。

 

針でずぶずぶと何度も刺された生々しい痛みが私の腕には残っていた。
恐怖と怒りと諦めが入り混じった無力感で私の胸は一杯になっていた。
こんな状態で正しい数値が測定できるはずもない。

 

「これからラシックスを投与します」

 

私は時計を見た。
9時20分。

 

ラシックス投与の60分後と120分後に改めて血液を採取するのがこの検査のやり方だ。
ラシックス投与後のレニンの値の変化を測定するためだ。
とりあえず自分で時間を測っておかなければならない。
なにせこの病院のスタッフはみな当てにならないからな。

 

Yがラシックスの注入を開始した。

 

わかる。
入ってくるのがわかる。
右腕に一気に冷たい感覚が走る。
血管の中が流れているという感覚は初めての経験だ。

 

「終わりました」

 

おお、終わった。
ラシックスの注入は恙なく終わった。
当たり前と言えば当たり前のことなのだが私は妙に感心した。

 

「これから検査が終了するまでの2時間、立ったままの状態を維持してください。その間水分をとってもいけません。トイレは自由にいってもらって結構です」

「はい」

「水分をとらないので脱水症状になる可能性があります。また、立ちくらみを起こすこともあります。きつくなったらすぐにナースコールしてください」

「はい」

 

ラシックス投与後妙に医師らしく指示を出し終えたYとMは、採取した血液が入ったケースをまとめて入院部屋を出て行った。

 

さてと・・・とのんびりしようと思ったのも束の間、
さっそく尿意が私を襲ってきた。

 

時計を見ると9時30分。
ラシックス注入開始からわずか10分後だ。

ラシックス投与の副作用の尿意はものすごいということは知っていたので、まあこんなもんだろうと、トイレに向かった。

 

トイレでは引き続き尿瓶に尿を出して計測器に入れなければならない。
ああめんどくせと思いながら用を済ませ、部屋に戻ってきた。

 

さて、本の続きでも読むか・・・と本を手に取り窓辺に寄り掛かろうとするもまたしても尿意が。

 

時計を見る。
9時40分。

 

ななんと最初の尿意発生からわずか10分後。
しかも、実際に排尿したのはおそらくは5分前くらい。
わずか5分でおしっこをしたくなるのか?

 

また尿瓶に排尿して計測器に入れるのはめんどうなので少し我慢するか、と思ったがとても我慢できるような尿意ではなかった。

しかたなく、またしてもトイレに行って尿瓶を取り出し排尿して計測器に入れた。

 

嗚呼、今日私は一体何回おしっこをすることになるのだろう・・・