「え・・・いや、ちょっと待ってください!」
私はあわててどう見ても30代前半にしか見えないハリのない女性研修医Yを制した。
「これから検査を始めるのですか?」
「ええ・・・時間ですから・・・」
「あの・・・フロセミド立位負荷試験って寝た状態での30分以上の安静が必要なんですよね?」
「・・・・・」
「アルドステロンとレニンの数値測定はちょっとした測定条件の変化で大きく値が変わると聞いています。だからこそ30分間の安静が条件となっているんですよね?私は今、落ち着いた状態ではありません。ですから、これから30分安静にした後にしてもらえませんか?」
私は入院前に自分が受けることになる検査について知識を得ていた。
アルドステロン、レニンの値は服用している降圧剤の種類によって影響を受ける。
だから私は入院前の約4か月間、降圧剤の種類を減らしていた。
それだけではない。
検査の時間帯、空腹度、安静の程度によってもアルドステロン、レニンの値は大きく変化してしまう。
だからこそ、原発性アルドステロン症の機能確認検査は全て早朝、空腹状態、そして臥床状態での30分程度の安静が要求されているのだ。
現に私は4か月前にこの病院で初めて血液を採取される際に「30分間動いてもいけないし、しゃべってもいけません」とナースに釘を刺されて30分間ひたすら一言も発せずピクリとも動かずにじっとしていたのだ。
しかし、この時の私の精神状態は安静とは程遠い状態にあった。
何しろ拷問を受けた直後なのだ。
それも5回も。
こんな状態で正確な数値が測れるはずもない。
この研修医にはそれが解らないのだろうか?
「血漿アルドステロン濃度( PAC)、血漿レニン活性(PRA)は測定条件により変化する!」
「フロセミド(ラシックス)立位試験の原理・実施方法・副作用」
「わかりました・・・。では30分後に開始します・・・」
そう言うと、Yは部屋を出て行った。
・・・・・・
なんでこんなにいい加減なんだろう?
この大病院は。
私がもしここで何も言わなかったらそのまますぐに検査をしていたに違いない。
ガイドラインで定められている測定条件を実質的に満たしていない検査が行われていたに違いない。
そして、その測定条件を満たしていない検査で得られたデータを基にして診断結果が出されていたに違いない。
私は命にも関わる危険性のある原発性アルドステロン症の検査をするためにわざわざ4日も費やして入院してきたのだ。
それなのに・・・
この大病院ではこんなことは日常茶飯事なのだろうか?
私は研修医の練習台にされてるのか?
そんなことを考えていたらあっという間に30分が経過していた。
どう見ても20代前半にしか見えないピチピチした若い女性研修医Mとどう見ても30代前半にしか見えないハリのない女性研修医Yが揃い踏みで私の入院部屋に戻ってきた。
「まず採血をします。7本とります」
この病院に対する不信感がどんどん膨らんできていてとても“安静”といえる状態ではなかったが、これ以上待ってくれと言う気にもなれなかった。
私はYとMに身をゆだねた。
「あ・・・」
「・・・」
「ルートがダメになってしまいました・・・」
「は?」
私は注射針が刺さっているはずの自分の右腕を見た。
別に何も変わっていない。
針は刺されたままの状態だ。
「あの・・・ダメになったって、どーゆーことですか?」
「すみません・・・血液が引けなくなりました・・・」
「・・・・・は?」
「あの・・・血管の中で針がずれたみたいで、採血できないのです・・・」
ずれた?
あれだけ痛い思いをしてようやく私の右腕の血管に刺さった注射針が、ずれた?
「もう一回とらせてください」
またしても私は注射針を刺されることになった。
もうどうにでもしてよと、私は自暴自棄になった。
!★?#&$★!/\?“※!★?!?!?!?!
6度目の激痛が私を襲った・・・