次にフロセミド(ラシックス)立位負荷試験の結果を見た。
0 | 60 | 120min | |
PRA(ng/ml/hr)
|
0.3 | 0.6 | 0.6 |
PAC(pg/ml)
|
107 | 147 | 177 |
ARR | 356.6 | 245 | 295 |
フロセミド(ラシックス)という降圧剤(利尿薬)を健常人に注射すると循環血漿量が減少し、それに対してレニン活性(PRA)が亢進する。
しかし、原発性アルドステロン症であれば、フロセミドにより循環血漿量が減少しても、レニン活性は抑制された状態となる。
この原理を利用した検査がフロセミド立位負荷試験だ。
すなわち、原発性アルドステロン症の疑いのある患者にフロセミドを注入し、その60分後、120分後のレニンの値が「2ng/mL/h」以下であれば原発性アルドステロン症陽性という判断になる。
「フロセミド(ラシックス)立位負荷試験の原理・実施方法・副作用」
つまり、着目すべきは60分後、120分後のPRAの値だ。
PRA・・・
ここだ。
0 | 60 | 120min | |
PRA(ng/ml/hr)
|
0.3 | 0.6 | 0.6 |
PAC(pg/ml)
|
107 | 147 | 177 |
ARR | 356.6 | 245 | 295 |
60分後のPRAは「0.6」
120分後のPRAは「0.6」
陽性だ
「先生。ラシックス立位負荷試験の判定も陽性ですか?」
「そうですね。PRAが60分後も120分後も基準の「2」を下回っているので・・・そういう判定になりますね」
確かに、数字だけで判定すればそういうことになるだろう。
しかし、だ。
そもそもレニンの値の測定は簡単なことではない。
ちょっとした測定条件の変化でその数字は大きく変わってしまう。
だから、検査開始前には、朝食を抜く、30分間ベットの上で臥床状態で安静にしておく、言葉を発してもいけない、等といった細かい条件が設定されているのだ。
「血漿アルドステロン濃度( PAC)、血漿レニン活性(PRA)は測定条件により変化する!」
だが、私はラシックス立位負荷試験の開始前に何度も研修医と会話をしている。
いや、したくてしたわけではない。せざるを得なかったからだ。
それだけではない。
私はベッドの上で体を起こしてはいないが、しかし体を起こす以上の、というよりバーベルを持ち上げるぐらいの力を全身に込めている。それも何度も何度も。
つまり安静とは程遠い状態でこの検査を受けているのだ。
そんな状態で測定された数字で正しい判定などできるはずもない。
私と研修医との間でそのような事実があったことをW医師は知っているのだろうか?
あるいはそのようなことが起こりうるだろうということくらいは想定しているのかもしれない。
というよりも、そんなことは医師にとっては、そしてこの大病院にとってはどうでもいいことなのかもしれない。
だから今更この点についてW医師に追及したところで意味はないだろう。
「じゃあ、もう一回検査をやり直しますか?もちろん患者様のご負担で」
などと言われてもやり直す気など今の私にはさらさらないのだから。
「わかりました。陽性なのですね」
そう言って、私は次の検査の数字に目を移した。