2015年12月10日

 

いよいよ原発性アルドステロン症の検査を受ける日が来た。

といっても特段緊張しているわけではない。今日は大したことはしないはずだから。

 

予約時間の30分前に病院に到着し、受付を済ませる。

高血圧内科の待合には膨大な数の患者でごったがえしていた。

まあ予定時間には呼ばれないだろう。

 

予想通り、予約時間を大幅に過ぎ、約1時間遅れで診察室に呼ばれる。

 

「失礼します」

 

ノックは不要なのだが、つい習慣で2回ノックをして診察室に入る。

 

いいですか、のび助さん

 

「どうぞ」

 

と、例によって患者の顔ではなく、机の上の書類を見ながら返事をする医師。

 

「よろしくお願いします」

 

医師から何か聞かれるまでは余計なことは話し始めない方がいい。

簡単に挨拶だけして医師が顔をあげるのを待つ。

 

「え~のび助さんですね」

 

顔をあげたのははメガネをかけた50歳程度に見えるまぁベテランの域に入ったであろう医師だった(以下、「T医師」と呼ぶ)。

 

「原発性アルドステロン症の検査を希望されているということですが、紹介状によると以前に撮ったCT画像ではその疑いは高くはないようですね。それで今回検査を希望されているのはいったいどういった理由で・・・」

 

そこで、これまでの経緯を簡単に説明。

特に、口渇と頻尿がひどい(1時間に2~3回はトイレに行く)ことからその原因を特定したいという気持ちをT医師に伝えた。

 

「そうですか・・・。頻尿の原因としては、まず膀胱の腫瘍の可能性がありますね。その点は当院の泌尿器科で検査してみましょうか」

「はい」

「それで、原発性アルドステロン症の検査についてですが・・・」

 

私は事前の準備として原発性アルドステロン症の検査について医学書等で確認しており、スクリーニング検査(血液検査)で陽性だった場合には3つの機能確認検査(カプトプリル負荷試験、フロセミド立位試験、生理食塩水負荷試験)を受けるというガイドラインを知っていた。

そして、C総合病院に行く前に、事前にC総合病院のホームページでガイドライン通りに3種の機能確認検査を実施することを確認していた。

原発性アルドステロン症の検査と治療の流れ

 

「それで、原発性アルドステロン症の検査についてですが、まずは血液検査をしまして、その結果が原発性アルドステロン症を疑わせるものであれば、さらに薬を服用してホルモンの値を測定するという検査(おそらくカプトプリル負荷試験のことを言っているのであろう)をすることになります」

「それは機能確認検査のことですよね?」

「そうです」

「だったらそれは3種類の試験を実施するということですよね?生理食塩水を点滴投与するとか・・・」

「あ、いや、当院ではひとつの検査しか実施していません。というのは生理食塩水を用いる試験などは決して安全な検査ではなく、また精度もそれほど高くないんですよ。そういった理由で実施しないのです」

「え?でもこの病院のホームページには3つの機能確認検査をすると記載されていますが・・・」

「いや、当院ではもうしないことになっているんです」

 

なんだか腑に落ちない。

しかし、ここでそれについて言い争っても仕方がない。

この点については、後で考えることにしよう。

 

しかし、ここで私の脳裏に一抹の不安がよぎった。

 

私がC病院を選択した最大にして唯一の理由は副腎腺腫の「部分切除」が可能だと言われたからなのだ

 

「あの・・・原発性アルドステロン症であった場合、私としては腺腫の部分切除を希望しています。その手術は可能なんですよね?」

「いや、当院では部分切除はできないですよ。副腎の全摘出ということになります」

 

え・・・・

 

「あの・・・先日、ここにくる前に電話でその点について問い合わせまして、それで部分切除が可能だと聞いたのですが・・・」

「いや、当院ではやっていません」

「・・・・・」

「部分切除を希望であれば、部分切除を実施している病院にいくしかないですね。この辺りにも部分切除を実施している病院はあるはずですよ」

「え?あるんですか?どこですか?」

「インターネットで検索すれば出てくるはずですよ。それで調べたらどうですか?」

「あの・・・それはA病院ですか?」

「いや・・・A病院ではやっていないですね」

 

ではB病院ですか?と聞こうとしたが、やめた。

要するに何も知らないのだ。このおっさんは。

 

 

頭の中を整理してみた。

私は部分切除の手術を受けたい。

だが、東北や横浜に遠征してまで受けるという選択肢は私にはない。

そして、部分切除を実施している病院は通院エリア内には存在しない。

私は事前に可能な限り調べているのだ。

 

 

「ただね、部分切除が可能といってもね、そういう病院は結構危険なことをやってるんですよ・・・」

「わかりました。では副腎全摘出を前提として検査を受けたいと思います」

「では・・・」

 

T医師から本日実施する検査の説明を受けた。

・ 採血(スクリーニング検査ではなく、一般的な血液検査)

・ 採尿

・ 胸のレントゲン

・ 心電図

・ ABI(動脈硬化の程度を調べる検査)

以上を実施するとのこと。

そのうえで、約1ヶ月後にスクリーニング検査をすることに。

 

 

「ところでね、のび助さん・・・」

 

もったいぶったように突然語り始めるT医師。

 

「仮にあなたが原発性アルドステロン症だとして、副腎を全摘出したとしてもね、あまりメリットはありませんよ?副腎を摘出しても高血圧が完治することはまずない。今飲んでいる降圧剤の数は減るかもしれないけど全く飲まなくてよくなるということにはおそらくはならない。だとしたらあまり意味はないんじゃないでしょうかね・・・」

 

え?

 

原発性アルドステロン症から生じる合併症は高血圧だけではない。

それ以外にも脳卒中、心不全といった命にかかわる合併症を引き起こすリスクが高いことを私は知っている。

私はむしろそういった死に直結するリスクが怖いからこそ、今回検査を受けに来たのだ。

高血圧だけではない!原発性アルドステロン症の恐ろしい合併症

 

「・・・・あの、先生。原発性アルドステロン症のリスクは高血圧だけではないですよね?例えば脳梗塞とか・・・」

 

 

その瞬間、T医師の顔色が明らかに変わった

 

 

「いいですか、のび助さん」

 

語気もいくばかりか強くなった。

そして両手を振りかざすようなジェスチャーも始まった。

 

「いいですか。原発性アルドステロン症の合併症があると言い切れるには、膨大なデータの蓄積があって初めて言えることなんですよ。例えば原発性アルドステロン症患者が脳梗塞を起こしたという事例があったとしても、二つの病気の間に因果関係があるとは言い切れないのです。いいですか、のび助さん・・・」

 

どうやらこの医師は興奮しだすと「いいですか」と両手を振りかざす行為を連発する習性があるようだ。

 

私の発言の何かしらがこの医師のプライドか何かを刺激するようなものを含んでいたのだろうか?

私としては何も悪気はなく、ただ自分の病状について真剣に追求しようとしているだけなのだが・・・。

 

「いいですか、のび助さん、$%#&%$#・・・」

 

もういいです、と言いたかったが言わなかった。

T医師の興奮が収まるのをただ黙ってじっと待っていた。

 

採血

 

T医師の興奮、いや、診察が終わり、ようやく本日の検査を受けることになった。

まずは、採血。

といってもスクリーニング検査ではない。

私は現在(ホルモンの分泌に影響を与える)降圧剤を飲んでいるので、スクリーニング検査を実施するためには、一定期間それらの降圧剤をやめなければいけないのだ。

だから、この日実施する採血はまあ一般的な(何をもって「一般的」と言うのかははよく分からないが)採血らしい。

 

でも、採血の前に15分間ベッドで横になっていなければならないとのこと。

アルドステロンやレニンの値を測るためには採血前にベットで安静にしていなければ正確な値はでない。

この日の採血も、降圧剤を飲んでいる状況下でのアルドステロンとレニンの値を測るのだろうか?

詳しい説明は受けていないのでわからないが、まあ言われたとおりにするしかない。

 

15分もベットに横になるのだから、そのまえにトイレにいって用をすませた。

私は頻尿なので15分でもじっとしているのは辛いのだ。

トイレから戻ってベッドに横になった。

担当のナースが言った。

「これから15分間はベッドでじっと横になったままでいてもらいます。動いてはいけないし、しゃべってもいけません」

 

え?しゃべってもいけない程の安静が必要なのか?

ということは採血の直前に今着ているセーターを脱ぐこともできないのだろう。

袖をまくられて伸びるのはイヤなので、今のうちにセーターを脱いでおく。

下着でも毛布をかぶれば寒くはない。

じっと15分経過するのを待つ。

 

15分が経った。

採血が始まる。

1本、2本、3本・・・

なんと計6本もとられた。

なんとなく指先がしびれたような感覚があった。

 

採尿

 

採血が終わって次に採尿。

採血前にトイレにいっていたが、そこは頻尿の私。

すんなり尿が出た。

 

レントゲン検査

 

続いてレントゲン検査。

上半身、下着をつけたままで正面と横から2枚レントゲンを撮る。

大きく息をすって、それから息を止めてパシャ。

普通のレントゲン検査だった。

 

心電図検査

 

次に心電図検査。

足、手、胸に電極をつけられて心電図を図る。

これまでも何回か心電図検査を受けたことがあるが、今までどおりの普通の検査だった。

 

ABI検査

 

次にABI検査。

これは私にとって初体験の検査だ。

動脈硬化の進行具合がわかるらしい。

 

検査室に入る。

ベッドに仰向けに寝かされる。

上腕と足首にカフを巻かれる。

そして手と足にジェルを塗られる。

冷たくてヌルッとした感じ。

やがてカフに圧が加えられる。

 

「結果はすぐ出ますか?」

「はい」

「教えてもらえますか?」

「担当医から説明することになっております。次の受診までお待ちください」

と看護師。

「わかりました」

 

わかってても、看護師ではなく医師の口から説明しなくてはならないのね。

それにしても、こんな簡単な検査で動脈硬化の程度が本当にわかるのだろうか?

本日の検査はこれにて終了。

 

初診を終えて

 

その日の検査がすべて終了した後、再びT医師の診察室へいく。

約1か月後の採血(スクリーニング検査)に向けて、今まで服用していた降圧剤のうち、テノーミンとフルイトランを明日からやめて、それで問題なければ2週間後からさらにブロプレスを止めるようにT医師に指示される。

そして、これらの薬を止めたことによる血圧の上昇を防止するために、朝1錠づつ飲んでいたカルデナリンとヘルベッサーを夜も1錠づつ飲むことになる。

次回の受信日の予約を入れて診察室を出る。

会計6590円を済ませて薬局に向かう。

 

なんだかモヤモヤした気分のまま、原発性アルドステロン症検査初日が終わった・・・